奥深い魅力に触れる。日本の伝統染色「ろうけつ染め」の世界

日本の美しい染色技法の一つである「ろうけつ染め」。この技法は、蝋(ろう)が染料をはじく性質を利用して、布地に独特の文様を描き出すものです。

ろうけつ染めの歴史は古く、シルクロードを経て日本に伝わったと考えられています。その起源は非常に古く、世界各地で見られる染色技法です。

ろうけつ染めの特徴は、蝋で描いた部分が染まらずに残ることで生まれる、繊細で個性的な表現です。筆や型を用いて蝋を置き、染色後に蝋を取り除くことで模様が現れます。この工程を繰り返すことで、複雑で奥行きのある表現も可能です。

ろうけつ染めの魅力は、手仕事ならではの温かみと、一つとして同じものがない独特の風合いにあります。偶然が生み出すにじみやひび割れも、ろうけつ染めの味わい深さにつながります。

近年では、より手軽にろうけつ染めを楽しめる「型染めろうけつ」という技法も注目されています。これは、型紙を使用して蝋を置くため、比較的簡単に美しい文様を作り出すことができるものです。

ろうけつ染めは、その自由な表現力と、作り手の個性を映し出すことができる点が魅力です。絵画のような繊細な表現から、大胆で力強いデザインまで、様々な表現が可能です。

この奥深い日本の伝統染色、「ろうけつ染め」の美しさを、ぜひ日常に取り入れてみませんか。

日本の染織文化を彩る、奥ゆかしい輝きを放つ「ろうけつ染め」。この技法は、古来より受け継がれてきた日本の伝統的な染色方法の一つであり、熱で溶かした蝋(ろう)が染料をはじく性質を巧妙に利用することで、布地に他に類を見ない独特の文様と豊かな表情を描き出すものです。まるで絵画のような繊細な表現も可能にする、奥深い魅力を持つ染色技法と言えるでしょう 。

遥かなるルーツ。シルクロードを経て日本へ

「ろうけつ染め」の歴史は、驚くほど古くまで遡ります 。その起源は西アジアにあり 、シルクロードを通じて東へと伝播し、奈良時代には日本に伝わったと考えられています。世界各地で見られる古い染色技法の一つでありながら、日本の風土と文化の中で独自の発展を遂げてきました。特に奈良時代には、その技法が盛んに用いられた記録が残っています 。遥か西方の地で生まれ、悠久の時を超えて日本の地に根付いた「ろうけつ染め」は、まさに歴史のロマンを感じさせる染色技法と言えるでしょう。

蝋と染料が生み出す、唯一無二の美しさ

「ろうけつ染め」の最大の特徴は、蝋で描いた部分が染料によって染まらずに残ることで生まれる、繊細で個性的な表現です。温めた蝋を、筆や型といった道具を用いて布地に丁寧に置いていき、その後、染色を行うことで模様が浮かび上がります。染色後に蝋を取り除くことで、意図した文様が鮮やかに姿を現します。この蝋を置く工程と染色する工程を繰り返し行うことで、単色染めでは表現できない、複雑で奥行きのある多色表現も可能になります 。蝋が染料をはじくことで生まれるシャープな輪郭線と、染料が滲むことで生まれる柔らかなグラデーションが、独特のコントラストを生み出し、見る者を魅了します。

手仕事の温もりと、偶然が生み出す意匠

「ろうけつ染め」の魅力は、単に美しい文様を作り出すだけでなく、手仕事ならではの温かみと、一つとして同じものがない独特の風合いにあります。蝋を置く際の筆致や、染料の滲み具合、そして蝋が乾燥する際に生じるひび割れなども、意図しない効果として現れ、それがまた「ろうけつ染め」の味わい深さ、偶然が生み出す意匠の面白さにつながります 。工業製品にはない、人の手の温もりと、自然の力が生み出す不均一な美しさこそが、「ろうけつ染め」が人々を惹きつけてやまない理由の一つと言えるでしょう。

現代に息づく新たな表現。「型染めろうけつ」

近年では、より手軽に「ろうけつ染め」の表現を楽しめる「型染めろうけつ」という技法も注目を集めています。これは、型紙を使用して蝋を置くため、比較的簡単に、かつ均一で美しい文様を作り出すことができるものです。手描きによる自由な表現とは異なる魅力を持つ「型染めろうけつ」は、伝統的な技法を現代のライフスタイルに取り入れやすくする試みとして、多くの人に親しまれています。型を用いることで、より正確で繰り返し可能なデザインが実現し、新たな表現の可能性を広げています。

無限に広がる表現力と、作り手の想いを映す美

「ろうけつ染め」は、その自由な表現力と、作り手の個性を映し出すことができる点が大きな魅力です。絵画のような繊細な表現から、大胆で力強いデザインまで、表現方法は多岐にわたります。蝋の置き方、染料の選び方、そして染色を繰り返す回数など、様々な要素を組み合わせることで、無限の表現を生み出すことができます。まさに、「ろうけつ染め」は、作り手の創造性と感性を自由に表現するための、豊かなキャンバスと言えるでしょう。

この悠久の歴史を持ち、奥深い魅力に満ちた日本の伝統染色「ろうけつ染め」の世界。その美しさと、手仕事の温もりを、ぜひ楽しんでみませんか。

令和7年 弥生

きものの染めとしては蝋を使う「ろうけつ染め」は白生地に色を染める後染め。

友禅染めや絞り染めはすべて後染めになりますが、今回の「**ローズアップする」**は後染めの「ロウケツ染め」です。

日本染織 物語 シリーズ 23

絵画のような詩情豊かな染色

「ロウケツ染め」

〜ルーツと奈良時代に現わる〜

「天平の三纈」と呼ばれる奈良時代の染色技法のひとつに「蝋纈(ろうけち)」があり、大陸から天平の世へという悠久の歴史が秘められてきました。

三纈とは三つの染色技法で「夾纈(きょうけち)」「纐纈(こうけち)」「蝋纈(ろうけち)」のことです。型で挟んで染める「夾纈」、縫い絞って染める「纐纈」、そして蝋で防染して染めるのが「蝋纈」です。模様の表裏に染料が浸透するため、表裏同じ色に染め上がるのが特徴で、現代のロウケツ染めにもその技法は継承されています。ロウケツ染めは、蝋の亀裂(ひび割れ)を模様として生かす技法1 。筆や型で丁寧に蝋を置いて、その部分を防染し染め上げます。蝋が乾燥する際にできる細かな亀裂が、独特の表情を生み出し、偶然の美しさ、二つとない作品として私たちの目を愉しませてくれます。

型染めロウケツ染めも近年では注目されています。型紙を使用して蝋を置くため、手描きに比べて比較的容易に同じ文様を繰り返すことが可能です。型を用いることで、より正確で均一なデザインも表現できるようになり、手描きのロウケツ染めとはまた違った魅力があります。

ロウケツ染めは筆の運びや蝋のひび割れ具合によって、全く同じものは二つと生まれません。絵画のように自由な表現ができるため、作家の個性や想いをダイレクトに表現することが可能です。繊細で優美なものから、大胆で力強いものまで、表現は無限に広がります。ぜひ、この奥深いロウケツ染めの世界に触れて、あなただけの美しさを見つけてみませんか!

絵画のような詩情豊かな染色「ロウケツ染め」

きものの染めには糸を染めてから織る「先染め」と白生地に色を染める「後染め」があります。友禅染めや型染め、絞り染めはすべて後染めになりますが、今回クローズアップするのは後染めの「ロウケツ染め」です。

ルーツは奈良時代に伝わった「天平の三纈(さんけち)」

7〜8世紀ごろ聖武天皇の時代に平城京が栄え、大陸から「天平の三纈」という染色技法が伝わってきました。

三纈とは三つの染色法で、纐纈染め(こうけちぞめ)、夾纈染め(きょうけちぞめ)、蝋纈染め(ろうけちぞめ)のことです。奈良の正倉院には三織をつかった品々が保存されています。

纐纈染めは絞り染めのことで、布を糸でくくって染料に浸し、後にくくった糸を外して柄を作り出す技法。夾纈染めは二枚の薄い板に布を挟んで締め付け、その部分を防染して染める技法。そして蝋纈染めは蝋を溶かしたものを生地につけて防し、染める技法です。

蝋纈染めは中国では唐の時代に流行した染色で、日本でも平安時代頃までは行われていましたが、遣唐使が廃止され蜜蠟(ミツバチが巣を作るために分泌するロウ状

の物質)が輸入されなくなったことをきっかけに途絶えてしまいます。今でいう「ロウケツ染め」が新たなカタチで復活したのは明治時代です。

型染めはシャープな仕上がり
ロウケツ染めは優しい仕上がり

ロウケツ染めと対照的な染め方に型染めがあります。型染めは型を使用することで、はっきりとしたきれいなデザインに仕上がり、細かい柄まで出すことが可能です。

ロウケツ染めは蝋を筆で生地に塗ることで、その部分が染まらなくしますが、蝋を薄く塗れば少しだけ染まるようにもなるため、塗る蝋の厚みのまばらさがそのまま色の濃淡となり、作品の表現につながります。染めと蝋を置くのを繰り返すことで、比較的自由に表現することができるため、型染めに比べると、筆を使って描くこと、少しずつ染めていくことなどから絵画のような色の深みや風合いが表現できます。

美しいグラデーションや優しい風合いは、詩豊か、見ているだけでもほのぼのとしてきませんか!